担保証券の選定と運用戦略

証券担保ローンを活用する際の、担保として差し入れる証券の選定基準と具体的な運用戦略について解説します。

担保証券としての評価基準

担保証券を選定する際は、以下の4つの観点から評価します。

配当継続性

長期間にわたって減配していない銘柄は、収益の安定性を示しています。10年以上の非減配実績がある銘柄は、景気変動に対する耐性が高いと評価できます。

配当性向

配当性向は40〜70%が理想的です。配当性向が低すぎる場合は増配余地がある一方、高すぎる場合は減配リスクが懸念されます。

キャッシュフロー安定性

営業キャッシュフローが安定している企業は、配当の持続性が高いです。フリーキャッシュフローが配当額を上回っている状態が望ましいです。

株価ボラティリティ

株価変動が大きい銘柄は、担保評価額の急落リスクがあります。ベータ値0.5未満の低ボラティリティ銘柄が担保として優秀です。

評価区分の定義

評価

定義

担保としての特徴

減配ほぼなし / 配当性向40〜70% / CF安定

中核候補として最優先

景気循環あり or 一部減配歴 / 配当性向許容

ETF等と組み合わせ推奨

配当変動大 / 一時的高配当の可能性

比率を抑えて運用

銘柄評価

高評価ゾーン(◎)中核候補

「担保×高配当」の中核として最優先で組み入れる銘柄群です。

高評価銘柄

銘柄コード

銘柄名

予想配当利回り

配当性向

特徴

9433

KDDI

約3.5〜4%

約45%

20年以上非減配、累進配当方針、株価変動穏やか

9432

NTT

約3.5%

約40%

国策色、安定CF、担保の土台として使いやすい

8593

三菱HCキャピタル

約4%

約50%

金融系で配当安定性が突出、担保×高配当の代表格

7164

全国保証

約3.6%

約40%

住宅ローン保証で安定収益、担保の「岩盤」として最適

通信インフラ銘柄(KDDI、NTT)は、景気変動の影響を受けにくく、担保価値の安定性が高いです。三菱HCキャピタルはリース業界で26年連続増配を達成しており、配当の継続性に優れています。全国保証は住宅ローン保証という安定したビジネスモデルを持ち、配当の質・株価安定性ともに最高水準で、担保ポートフォリオの「岩盤」として機能します。

実用上有力(○)補助候補

配当は高いが循環要因があり、単独での担保運用よりも分散投資の一部として活用する銘柄群です。

補助候補銘柄

銘柄コード

銘柄名

予想配当利回り

特徴・注意点

6481

THK

約5.5〜6%

製造業循環あり、業績連動型配当、ETF等と組み合わせ推奨

2296

伊藤ハム米久HD

約5.5%

食品系でCF安定、ただし増配余地は限定的

注意ゾーン(△)

利回りは高いが、担保価値の安定性に注意が必要な銘柄群です。

注意銘柄

銘柄コード

銘柄名

予想配当利回り

注意点

9107

川崎汽船

5%超

市況依存、担保価値のブレが大きい、比率を抑えるべき

1605

INPEX

約4〜5%

資源価格依存、原油急落時に担保価値が下がりやすい

ETF・J-REITの活用

高配当ETF(担保安定枠)

ETFは個別株の減配リスクを構造的に分散できるため、担保評価も安定しやすいです。

高配当ETF

銘柄名

銘柄コード

利回り

特徴

NF日経高配当50

1489

約4%

日経平均採用銘柄から高配当50銘柄を選定

iS MSCI日本高配当

約4%

MSCIの銘柄選定基準による分散

J-REIT(分配安定枠)

J-REIT

銘柄名

分配利回り

特徴

日本ビルファンド

約4%

オフィス中心、国内最大級のJ-REIT

GLP投資法人

約4%

物流施設特化型

J-REITは金利上昇局面で価格調整の可能性があります。担保掛目は株式より低めを想定してください。

担保に入れる順番(危険度順)設計

担保証券は危険度の低い順に組み入れることで、市場急落時の追証リスクを軽減できます。

優先順位

担保組み入れ優先順位

優先度

カテゴリ

具体的銘柄

理由

1(最優先)

通信インフラ

KDDI、NTT

低ボラティリティ、非減配実績、ディフェンシブ

2

高配当ETF

NF日経高配当50(1489)

分散効果、流動性高い

3

金融系安定配当

三菱HCキャピタル

連続増配実績、配当性向適正

4(補助枠)

食品・製造業

伊藤ハム米久HD、THK

CF安定だが循環要因あり

5(比率制限)

景気敏感株

川崎汽船、INPEX

高利回りだが変動大、10%以下推奨

推奨ポートフォリオ配分

担保証券ポートフォリオの推奨配分比率です。

  • 通信インフラ + 高配当ETF: 50〜60%

  • 金融系安定配当: 20〜25%

  • 食品・製造業: 10〜20%

  • 景気敏感株: 10%以下

担保耐久力最大化モデルポートフォリオ

「下落耐性 > 利回り」を重視し、暴落時でも最後まで担保に残り続けることを目的としたモデルポートフォリオです。

設計思想

このポートフォリオは以下を最大化します。

  • 担保価値が落ちにくい

  • 配当が継続する

  • 長期で壊れない

最大利回りや短期パフォーマンスは目的としていません。

各資産の役割定義

資産別の役割

資産

役割

説明

全国保証

担保の「岩盤」

減配・急落リスクを最小化、担保の最下層として最後まで残す

三菱HCキャピタル

配当エンジン

利回りを底上げする収益源、多少動くが戻ってくる資産

高配当ETF

分散バンパー

個別株リスクの緩衝材、担保評価の平準化

標準モデル配分

担保耐久力最大化ポートフォリオ

資産

比率

役割

全国保証

40%

担保の岩盤

三菱HCキャピタル

30%

配当エンジン

高配当ETF(1489等)

30%

分散・安定

想定インカム

  • 全国保証: 3.6% × 40% = 1.44%

  • 三菱HCキャピタル: 4.0% × 30% = 1.20%

  • 高配当ETF: 4.0% × 30% = 1.20%

合成利回り: 約3.8%

ローン金利3%前後であれば、インカムで金利を概ね相殺可能です。

担保に入れる順番

このモデルでは以下の順番で担保に組み入れます。

  1. 高配当ETF(最初に入れる): 価格変動が緩やかで担保調整しやすい

  2. 三菱HCキャピタル: 下落しても回復しやすい

  3. 全国保証(最後に入れる): 触らない前提の最終防衛ライン

暴落シナリオ耐性

市場が-30%下落した場合の想定です。

暴落時の想定下落率

資産

想定下落率

全国保証

-15〜20%

三菱HCキャピタル

-25%

高配当ETF

-20%

担保評価の平均下落は約22%となり、証券担保ローンでは十分耐える設計です。

運用ルール

年次チェック項目

全国保証

  • 配当性向が50%を超えていないか

  • 住宅ローン保証残高の構造変化

三菱HCキャピタル

  • 信用コスト急増の兆候

  • 配当性向70%超が常態化していないか

高配当ETF

  • 分配金水準の急低下

  • 組入銘柄の質の変化

売却・入替ルール

以下の条件に該当した場合は、速やかに対応します。

売却・入替トリガー

トリガー

対応

全国保証が減配

戦略全体を再設計

三菱HCキャピタルが明確な減配

比率引き下げまたは銘柄入替

ETF分配金の急減

別ETFへ入替

借入金利を考慮した実質利回り計算

計算式

担保ローンを活用した場合の実質利回りは、以下の式で算出します。

\[\text{実質利回り} = \text{配当利回り} - (\text{借入金利} \times \text{借入比率})\]

ここで、借入比率は担保評価額に対する借入金額の割合です。

計算例

  • 担保株式の配当利回り: 4%

  • 借入金利: 2%

  • 借入比率: 50%(担保評価額1000万円に対して500万円借入)

\[\text{実質利回り} = 4\% - (2\% \times 0.5) = 4\% - 1\% = 3\%\]

損益分岐点

借入金利と配当利回りの関係から、損益分岐点を算出できます。

\[\text{損益分岐借入比率} = \frac{\text{配当利回り}}{\text{借入金利}}\]

例: 配当利回り4%、借入金利2%の場合

\[\text{損益分岐借入比率} = \frac{4\%}{2\%} = 200\%\]

つまり、借入比率が200%(担保評価額の2倍)を超えると、配当収入が金利コストを下回ります。実際には担保掛目の制約(50〜70%)があるため、このような高い借入比率は不可能です。

銘柄別実質利回り一覧

借入金利2%、借入比率50%を想定した場合の実質利回りです。

銘柄別実質利回り

銘柄

配当利回り

金利コスト

実質利回り

THK

5.5%

1.0%

4.5%

伊藤ハム米久HD

5.5%

1.0%

4.5%

川崎汽船

5.0%

1.0%

4.0%

KDDI

3.75%

1.0%

2.75%

NTT

3.5%

1.0%

2.5%

三菱HCキャピタル

4.0%

1.0%

3.0%

全国保証

3.6%

1.0%

2.6%

暴落時の担保割れライン試算

追証発生条件

担保評価額が借入金額を下回ると追証(追加担保要請)が発生します。追証ラインは以下の式で計算できます。

\[\text{追証発生下落率} = 1 - \frac{\text{借入比率}}{\text{担保掛目}}\]

計算例

  • 担保掛目: 60%

  • 借入比率: 50%(担保評価額に対する借入金額の割合)

\[\text{追証発生下落率} = 1 - \frac{0.5}{0.6} = 1 - 0.833 = 16.7\%\]

つまり、株価が約17%下落すると追証が発生します。

借入比率別の追証ライン

借入比率別追証ライン(担保掛目60%の場合)

借入比率

追証発生下落率

評価

30%

50%

安全圏(リーマンショック級にも耐える)

40%

33%

やや余裕あり

50%

17%

標準(通常の調整で追証の可能性)

55%

8%

危険(小幅調整でも追証リスク)

過去の大幅下落との比較

主要な市場暴落時の下落率と、各借入比率での追証発生有無を比較します。

過去の暴落と追証シミュレーション

イベント

下落率

借入30%

借入40%

借入50%

リーマンショック(2008年)

約50%

追証発生

追証発生

追証発生

コロナショック(2020年)

約30%

耐える

追証発生

追証発生

通常の調整局面

約15%

耐える

耐える

追証発生

リスク管理の推奨

  1. 借入比率は40%以下を推奨: 通常の調整局面で追証を回避できる水準

  2. 現金余力の確保: 追加担保として差し入れられる現金を常に確保

  3. 低ボラティリティ銘柄の優先: 中核候補(◎評価)を中心に担保構成

  4. 定期的な担保余力チェック: 月次で担保評価額と借入残高を確認

参考

リスク管理の詳細については リスクと注意点 を参照してください。